2008年 08月 30日
いまさら福田ビジョン
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ちょっと古い話になって恐縮だけれど、洞爺湖サミットを直前に福田総理が低炭素社会に向けての展望、いわゆる“福田ビジョン”を発表した。福田ビジョンによれば『新築住宅の7割以上に太陽光発電を設置する』という目標が掲げられ、消費者が太陽光発電システムを設置する際の実負担を今後3~5年で半額にし、2020年までに導入量を現在の10倍、2030年までに40倍にし、「太陽光発電世界一の座を奪還する」と言うもの。
このビジョンに基づいて、今月27日、経済産業省も2009年度予算の概算要求で、家庭用の太陽光発電の普及を支援する補助金を4年ぶりに復活させると発表した。予算規模は2005年度の約9倍の238億円。続いて報じられたニュースは、何と皇居にも太陽光発電パネルを設置することが決まった(秋篠宮家は設置済み...笑)らしいというもの。ようやく国が本気で動き始めたか!一瞬そう思ったけど、でもよくその内容を検証してみると、福田ビジョンには巧妙なワナがあることに気付いて愕然となった。僕が気付いた福田ビジョンに隠されたワナ...そのひとつひとつを検証してみようと思う。
1.『新築住宅の7割以上に太陽光発電を設置する』
7割!と驚くなかれ、あくまでも“新築の”7割である。新エネルギー財団(NEF)の統計「平成19年度 住宅用太陽光発電システム価格及び発電電力量等について」を見ると、太陽光発電の設置件数のうちの新築住宅の割合を計算することが出来るんだけど、家を新築すると同時に太陽光発電を設置した家の割合は約25%。残りの75%は我が家と同じように既設住宅への設置である。
福田ビジョンでは既設住宅への設置については何ら言及していないのである。
2.2020年までに導入量を現在の10倍、2030年までに40倍に
NEFの統計によれば2007年度までの太陽光発電設置容量は146万kW。モニターを募集して設置を促す補助金制度から10年以上を要して、辿り着いた数字がこれである。1998年~2002年の4年間は、前年比プラス50%の勢いで順調に設置容量が伸びていたけど、2003以降伸びが小さくなり、補助金が廃止された2005年以降はマイナスに転じている。
こんなお粗末な現状で総量で10倍や40倍にするということが如何に難しいことか?無理じゃん!って思ったらここにもまた言葉のまやかしが(涙)。
今回の福田ビジョン(あるいはその元になる「総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会」の「中間とりまとめ(緊急提言)案」)の内容を良く読んでみると、太陽光発電の規模や導入する軒数ではなく、あくまでも“新築における導入量”を10倍にすると宣言しているように読めるのだ。つまり国内で太陽光発電を導入する世帯のたった25%である新築同時設置を10倍にするってことは、11年かけて2.5倍にするに過ぎないわけで、太陽光発電導入の75%を占める既設住宅への設置を無視した設定目標なんてのはナンセンスなのではないだろうか。
3.消費者が太陽光発電システムを設置する際の実負担を今後3~5年で半額に
今回決定された補助金の予算規模は2005年度の約9倍の238億円。ただし、2005年度までの補助金は様々な変遷はあったものの、新築住宅に限ったものではなく、既設住宅への設置に関しても補助金が交付された。ところが、今回の福田ビジョンでは、今後、家を新築する人、しかも新築同時設置する場合のみに補助金とグリーン電力証書で支援していくと書かれている。
つまり、前述のように国内で太陽光発電を導入する世帯の25%である新築同時設置に9倍の補助を与えるわけなので、単純に計算すると一軒あたりの補助金の規模は2005年の36倍にもなるわけだ(但し、導入量を倍にするということなので18倍?)
2005年の太陽光発電システムの最低価格は66万円/1kW。で、2005年の政府補助金は2万円/kW(*ちなみに2001年のシステム最低価格は77万円/1kWで、補助金は12万円/kW
だった)。この18倍の補助金を新築する家に限って集中的に交付すれば、66万円-2005年度実績・2万円×18=30万円...確かに半額以下にはなりますな(苦笑)。
ただここで忘れてはならないのが、太陽光システムの値上げ。実際、2006年を底に徐々にシステム価格が上がり始めていて、国内最大手のSHARPもこの秋に架台を含めた大幅な値上げをアナウンスしていることだし...。
ここまで様々な考察をしてくると、太陽光発電に関する政府の無策ぶりが如実に現れてくる。
1998年から2002年の4年間、前年比プラス50%と右肩上がりで順調に設置容量が伸びていたのに、どうして補助金をカットしてしまったのか?カットした途端に設置容量が落ち込み、結果として太陽光発電No.1国の地位を易々とドイツに明け渡してしまった。No.1なんて地位はともかく、かつて世界一のメーカーだったSHARPを始めとする国内メーカーが2003年以降のユーロ高で利益を確保でき、かつ手厚い補助で販売好調の欧州への出荷を増やしたことで、さらに国内の普及が落ち込むことになった。これはもはや無策ではなく妨害と言って差し支えないのではないか?と思うのだ。
ま、そんなわけで、一番賢く太陽光発電システムを導入出来るのは、NEFの補助金が正式に交付されるようになる来年度以降、新築と同時に導入する人たちなのは間違いない...補助金がなくなった2006-2008年の間をわざわざ選んだかのように太陽光発電を導入した我が家はバカだよなぁって思ってしまうところ(涙)だけど、あと数年で子供たちが独立することになる我が家が、今のログハウスを建てるのを10年以上遅らせることは有り得ない選択だっただろうし、30年という長きにわたって発電を続ける太陽光発電システムだけに、少しでも早く導入することは色んな意味で「是」だと思うから、僕としては全く後悔していない。
スーパーで1Lパックの牛乳を買うことに例にとると、我が家はMasaがガブ飲みするから数本まとめ買いする必要があるんだけど、消費期限が9/5の牛乳を¥200で3本買って¥600払うのは「是」だ。でも、その牛乳を9/4に特売で¥100で3本買って¥300で済ませるのは「否」なのである。
太陽光システム導入に時間制限はない。
でも僕の人生には限りがある。
太陽光システムに消費期限はない。
でも化石燃料には限りがある。
我が家の6kWシステムが世界のエネルギー問題に貢献出来る部分は、たぶん限りなくゼロに近い。でも「やりたいこと」「楽しそうなこと」「出来ること」をやるのかやらないのかは、僕自身にとってはとても大きな違いなのだ。
いずれにせよ、日本の国家予算は一般会計だけでも83兆円。それに対して補助金の予算は238億円と実に0.03%にも満たない。(ちなみにこの金額は偶然にもチェルシーのアブラモビッチ会長がミランのカカ獲得のために準備していると言われる金額と同じ。カカひとりと同じかよ!...笑)
年収の何割かを太陽光発電システムにつぎ込むことを「是」とした僕と福田ビジョンとの温度差があるのは当然なんだろうけど、問題なのはお金の使い方。
初期費用の補助ではなく、運用実績に応じた継続的な補助...つまりドイツのように電力の買取り価格をやや高額に設定することで、一般家庭の導入促進に加え、再生可能エネルギービジネスが次々に起業されるような補助金のあり方があっていいのではないかと感じるんだけど、どうでしょう?
このビジョンに基づいて、今月27日、経済産業省も2009年度予算の概算要求で、家庭用の太陽光発電の普及を支援する補助金を4年ぶりに復活させると発表した。予算規模は2005年度の約9倍の238億円。続いて報じられたニュースは、何と皇居にも太陽光発電パネルを設置することが決まった(秋篠宮家は設置済み...笑)らしいというもの。ようやく国が本気で動き始めたか!一瞬そう思ったけど、でもよくその内容を検証してみると、福田ビジョンには巧妙なワナがあることに気付いて愕然となった。僕が気付いた福田ビジョンに隠されたワナ...そのひとつひとつを検証してみようと思う。
1.『新築住宅の7割以上に太陽光発電を設置する』
7割!と驚くなかれ、あくまでも“新築の”7割である。新エネルギー財団(NEF)の統計「平成19年度 住宅用太陽光発電システム価格及び発電電力量等について」を見ると、太陽光発電の設置件数のうちの新築住宅の割合を計算することが出来るんだけど、家を新築すると同時に太陽光発電を設置した家の割合は約25%。残りの75%は我が家と同じように既設住宅への設置である。
福田ビジョンでは既設住宅への設置については何ら言及していないのである。
2.2020年までに導入量を現在の10倍、2030年までに40倍に
NEFの統計によれば2007年度までの太陽光発電設置容量は146万kW。モニターを募集して設置を促す補助金制度から10年以上を要して、辿り着いた数字がこれである。1998年~2002年の4年間は、前年比プラス50%の勢いで順調に設置容量が伸びていたけど、2003以降伸びが小さくなり、補助金が廃止された2005年以降はマイナスに転じている。
こんなお粗末な現状で総量で10倍や40倍にするということが如何に難しいことか?無理じゃん!って思ったらここにもまた言葉のまやかしが(涙)。
今回の福田ビジョン(あるいはその元になる「総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会」の「中間とりまとめ(緊急提言)案」)の内容を良く読んでみると、太陽光発電の規模や導入する軒数ではなく、あくまでも“新築における導入量”を10倍にすると宣言しているように読めるのだ。つまり国内で太陽光発電を導入する世帯のたった25%である新築同時設置を10倍にするってことは、11年かけて2.5倍にするに過ぎないわけで、太陽光発電導入の75%を占める既設住宅への設置を無視した設定目標なんてのはナンセンスなのではないだろうか。
3.消費者が太陽光発電システムを設置する際の実負担を今後3~5年で半額に
今回決定された補助金の予算規模は2005年度の約9倍の238億円。ただし、2005年度までの補助金は様々な変遷はあったものの、新築住宅に限ったものではなく、既設住宅への設置に関しても補助金が交付された。ところが、今回の福田ビジョンでは、今後、家を新築する人、しかも新築同時設置する場合のみに補助金とグリーン電力証書で支援していくと書かれている。
つまり、前述のように国内で太陽光発電を導入する世帯の25%である新築同時設置に9倍の補助を与えるわけなので、単純に計算すると一軒あたりの補助金の規模は2005年の36倍にもなるわけだ(但し、導入量を倍にするということなので18倍?)
2005年の太陽光発電システムの最低価格は66万円/1kW。で、2005年の政府補助金は2万円/kW(*ちなみに2001年のシステム最低価格は77万円/1kWで、補助金は12万円/kW
だった)。この18倍の補助金を新築する家に限って集中的に交付すれば、66万円-2005年度実績・2万円×18=30万円...確かに半額以下にはなりますな(苦笑)。
ただここで忘れてはならないのが、太陽光システムの値上げ。実際、2006年を底に徐々にシステム価格が上がり始めていて、国内最大手のSHARPもこの秋に架台を含めた大幅な値上げをアナウンスしていることだし...。
ここまで様々な考察をしてくると、太陽光発電に関する政府の無策ぶりが如実に現れてくる。
1998年から2002年の4年間、前年比プラス50%と右肩上がりで順調に設置容量が伸びていたのに、どうして補助金をカットしてしまったのか?カットした途端に設置容量が落ち込み、結果として太陽光発電No.1国の地位を易々とドイツに明け渡してしまった。No.1なんて地位はともかく、かつて世界一のメーカーだったSHARPを始めとする国内メーカーが2003年以降のユーロ高で利益を確保でき、かつ手厚い補助で販売好調の欧州への出荷を増やしたことで、さらに国内の普及が落ち込むことになった。これはもはや無策ではなく妨害と言って差し支えないのではないか?と思うのだ。
ま、そんなわけで、一番賢く太陽光発電システムを導入出来るのは、NEFの補助金が正式に交付されるようになる来年度以降、新築と同時に導入する人たちなのは間違いない...補助金がなくなった2006-2008年の間をわざわざ選んだかのように太陽光発電を導入した我が家はバカだよなぁって思ってしまうところ(涙)だけど、あと数年で子供たちが独立することになる我が家が、今のログハウスを建てるのを10年以上遅らせることは有り得ない選択だっただろうし、30年という長きにわたって発電を続ける太陽光発電システムだけに、少しでも早く導入することは色んな意味で「是」だと思うから、僕としては全く後悔していない。
スーパーで1Lパックの牛乳を買うことに例にとると、我が家はMasaがガブ飲みするから数本まとめ買いする必要があるんだけど、消費期限が9/5の牛乳を¥200で3本買って¥600払うのは「是」だ。でも、その牛乳を9/4に特売で¥100で3本買って¥300で済ませるのは「否」なのである。
太陽光システム導入に時間制限はない。
でも僕の人生には限りがある。
太陽光システムに消費期限はない。
でも化石燃料には限りがある。
我が家の6kWシステムが世界のエネルギー問題に貢献出来る部分は、たぶん限りなくゼロに近い。でも「やりたいこと」「楽しそうなこと」「出来ること」をやるのかやらないのかは、僕自身にとってはとても大きな違いなのだ。
いずれにせよ、日本の国家予算は一般会計だけでも83兆円。それに対して補助金の予算は238億円と実に0.03%にも満たない。(ちなみにこの金額は偶然にもチェルシーのアブラモビッチ会長がミランのカカ獲得のために準備していると言われる金額と同じ。カカひとりと同じかよ!...笑)
年収の何割かを太陽光発電システムにつぎ込むことを「是」とした僕と福田ビジョンとの温度差があるのは当然なんだろうけど、問題なのはお金の使い方。
初期費用の補助ではなく、運用実績に応じた継続的な補助...つまりドイツのように電力の買取り価格をやや高額に設定することで、一般家庭の導入促進に加え、再生可能エネルギービジネスが次々に起業されるような補助金のあり方があっていいのではないかと感じるんだけど、どうでしょう?
by papapaddleraki
| 2008-08-30 16:12
| -ソーラーパワー