2016年 12月 05日
冬のお客さま
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『ジョウビタキちゃん、来てるわよ♪』
出勤前、薪棚に載せた雨避けの効果を確かめようと庭に出ると、薔薇のオベリスクの間からともちゃんが顔を出して僕につぶやいた。
『どこ?』
『ここ。』
“there”でも“over there”でもなく“here”
ともちゃんの目線を追うと、彼女の目と鼻の先のオベリスクの真ん中あたりにジョウビタキの♀が留まっていて、僕が近づくと彼女の背中側の木製フェンスに飛び移って、その円らな瞳で僕をジッと見ている。
僕は慌ててサンルームに戻って、ジンバル雲台にセットした1400mmレンズ付きの一眼カメラを手に庭に出る。
『あれ?どこに行った?』
『隣のお庭に飛んでっちゃったわよ。』
ともちゃんの話では、最近庭仕事をしてて、囀りに気づいて顔を上げると手を伸ばせば届くほど近い場所にジョウビタキが来て、ジッとこっちを見ていることが多いらしい。庭に出た時は居ないのに、彼女が夢中で庭仕事をしている間にどこからともなくやって来て、まるで彼女を呼ぶように近くに留まるのだという。
『逃げるとか逃げないとかじゃなく、向こうからやって来るの。ワタシが動いても全然気にしない感じで可愛いわよ〜。この前は♂も来てたし♪』
どうやら薪から出た虫やともちゃんが肥料代わりに撒く米ぬかを啄ばみに来ているうちに、ともちゃんが危害を加えないニンゲンだと理解した...と言うか、米ぬかをくれる親切なかーちゃんぐらいに思っているみたい。
『そんな大きなカメラで撮ろうとするからいけないのよ。ジッとしてたら向こうから近づいてくるのに。iPhoneではみ出しちゃうぐらいに近くに来るわよ。カメラで撮るより50cmの距離でお話しする方がずっとキレイに見えて楽しいわよ。』
そ、そうだった!
各地の野鳥撮影スポットで、大挙してデカい三脚で白レンズを構え、野鳥を愛でるというよりも、いい写真を撮ることだけを目的に...その目的を達成するためなら、野花を踏みつけ、邪魔な枝を折り、通行するハイカーを怒鳴りつける“ハンター”の目をしたお爺ちゃんたちの行状を目の当たりにして、写真が趣味であることを心から恥じた僕。
写真を撮ることよりもこの目で見て愛でることに宗旨替えをしたはずが、ついつい...ね(苦笑)
チベットやバイカル湖から越冬のために日本にやってきて、我が家の庭を越冬場所に選んでくれるジョウビタキは僕らにとって大切なお客さま。お客さまにいきなり1400mmのレンズを向けて連写したら、そりゃジョウビタキじゃなくても驚くよなぁ。
深く反省しつつ、いつの日か穏やかな冬の陽射しの下、薪割りしてる僕の肩にジョウビタキちゃんが留まって囀る日を夢見て...僕らはずっとそんな暮らしが理想だったのだから。
by papapaddleraki
| 2016-12-05 09:48
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